東京高等裁判所 昭和61年(く)268号 決定
被告人 鎌田雅志 外八名
〔抄 録〕
所論は、要するに、(一)裁判長裁判官中山善房は、前記被告事件の訴訟手続において、(1)強権的に訴訟指揮権、法廷警察権を行使し、被告人に対し発言禁止や退廷命令を乱発したり、弁護人の異議申立を無視するなどし、(2)三度にわたり、被告人の人権を無視して夜間法廷を強行し、(3)欺罔や詐術を駆使することにより、被告人らの発言、意見陳述等の機会を奪い、あるいは弁護人の異議申立を無視し、更には公判調書に虚偽の記載をさせるなどしているが、このようなことは、本件被告人らと共犯関係に立つとされる者を審理する他の三か部では見られないことであって、同裁判長の被告人らに対する何らかの予断に基づくとしか考えられないところである、(二)しかも、同裁判長は、被告人らが国及び同裁判長を被告として提起した国家賠償等請求事件において、訴訟代理人として弁護士西迪雄を選任したが、同弁護士は、従前から、本件被告事件の被害者である日本国有鉄道の代理人として国鉄労働者に対する解雇、懲戒等の労働事件を担当して来たものであり、国鉄千葉動力車労働組合の一一・二九ストライキに対する解雇処分事件を担当して、同ストライキに連帯した被告人らの行動について、「支援と称する一部過激派の信号ケーブル切断等の同時多発ゲリラ活動」と評することなどもしており、刑訴法二〇条が裁判官の除斥事由として、裁判官が被害者又はその親族、法定代理人、後見監督人、補佐人等であることを挙げていることからすると、被害者との関係では忌避原因は広く考えられるべきであって、同裁判長が同弁護士を自己の訴訟代理人としたことは、同裁判長が被害者国鉄と密接な関係にあることを推測させるとともに、国鉄と一体となった同弁護士の意向にそう裁判をするのではないかとの疑念を生じさせるものであるから、同裁判長には不公平な裁判をする虞れがあると認められる、(三)したがって、同裁判長に対する忌避原因は訴訟手続内及び訴訟手続外の双方にあるから、本件各忌避の申立は、訴訟遅延のみを目的とすることが明らかなものとはいえず、これを簡易却下した各原決定は取り消されるべきである、というのである。
そこで、関係記録を精査して検討すると、昭和六一年一〇月三一日に開かれた本件被告事件の第七回公判において、その冒頭高橋弁護人が中山裁判長に対し忌避の申立をし、原裁判所が検察官の意見を聴いたうえ、訴訟を遅延させる目的のみでなされたことが明らかであるとして、これを簡易却下する旨の決定をしたが、更に小泉被告人、中村被告人が相次いで同裁判長に対し忌避の申立をし、原裁判所が同様これらを簡易却下したことが認められる。
ところで、所論のうち同裁判長の訴訟指揮権、法廷警察権、その他の訴訟法規上の権限の行使を批難する部分は、本件被告事件の訴訟手続内における審理の方法、態度に対する不服であり、異議、上訴などの方法によって解決されるべきであって、もともと正当な忌避の理由となるものではない。また、同裁判長は、被告人らから提起された国家賠償等請求事件において、訴訟代理人として西弁護士を選任したこと、本件被告事件は、国鉄浅草橋駅舎等に危害を加える目的をもってした兇器準備集合及び同駅職員らが現在する同駅舎内で火炎びんを投てきするなどした火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、現住建造物等放火であって、国鉄は刑訴法二〇条にいう被害者にあたるところ、西弁護士は従前労働事件において国鉄の代理人となっていることなどが認められるが、弁護士は、一般に法規に触れない限り自由に事件を受任できるのであるから、特別の事情のない限り弁護士を介してその依頼者同士が何らかの係わり合いを持つと推測することは困難であり、同裁判長に右のような特別の事情のあることをうかがわせる資料や状況は全く見当らないから、同裁判長が同弁護士を自己の訴訟代理人としたこともまた、本件被告事件について公平で客観性のある審判を期待できないことを疑わせるには程遠く、正当な忌避の理由となるものではない。そうしてみると、所論のいう本件各忌避申立の理由は、いずれも忌避を正当化するに足りないことが容易に看取でき、この程度の理由に基づく同申立は、受け容れられる可能性がないことからして、訴訟遅延のみを目的とするものと認定することができる。
のみならず、本件被告事件の訴訟経過をみると、第一回公判期日において、大口弁護人が同裁判長に対し忌避の申立を行い、原裁判所によってこれを簡易却下され、弁護人らにおいて即時抗告を申し立てたが、これも棄却されたこと、第二回公判後の昭和六一年八月一一日被告人ら九名が同裁判長を含む原裁判所裁判官三名全員に対し忌避の申立をし、原裁判所で簡易却下されたこと、第三回公判後の同月一八日被告人ら九名が同様忌避の申立をし、同様簡易却下され、これに対する即時抗告も棄却されたこと、第五回公判において、鎌田被告人が裁判官全員の忌避を申し立て、簡易却下されたこと、第六回公判においては、同被告人及び三上弁護人がそれぞれ同裁判長の忌避を申し立てたが、いずれも簡易却下されたことなどが認められ、これまで弁護人ら及び被告人らから理由のない忌避の申立が乱発されて来ているといえるうえ、第七回公判においては、検察官請求証人四名の取調べが予定されていたのに、その冒頭で本件の三件の忌避申立が次々となされていることなどの事情があり、これらに照らしてみても、本件各忌避の申立が明らかに訴訟を遅延させる目的のみでされたものであることに疑問の余地はない。
(寺澤 横田 小圷)